この話に出てくる制作会社さんを責めたいとか、そういう意図はまったくなく、おもしろ話として書きたい思い出があります。
(おもしろ話として書いたからって、おもしろくなるとは限らない……けど、アタイがんばるから。アタイのおもしろ、込めてみるから。)
そもそも、私の失敗談なんです。
結構前に、テレビ番組の制作会社さんからこんな感じのメールをもらいました。
―――
今度、〇〇という番組で、
「バイキング」についての企画をやります。
そこで、ネットであぐ味さんのことを見つけ、
ご出演いただけないかと思い連絡しました。
つきましては、お打ち合わせを~……
―――
バイキングっていうのは、遊園地の船じゃなくて、小峠さんと西村さんでもなくて、
山盛りのウインナーとかが無限に食べられる場所です。
もちろんほんとはもっとご丁寧な文面でした。
受け取った情報はこのくらいだったけど。
出演しませんかと言われたその番組は好きだったし、
学校で周りの人を「欽ちゃんの仮装大賞に応募しようよ」と誘い続けるくらい、テレビに出たがりなので興奮しました。
仮装大賞には誰もノッてくれず、一人でヒジや太ももを使って「北京ダック~」とかやる勇気もないので、もう遠い夢です。
で、「なぜバイキングの企画に私を?」とはやっぱり思ったのですが、
そのメールをもらった頃、おいしいお店のレポートなど、
食べ物をたくさん食べる記事を書いたりしていたので
「よく食べるリポーターとかがほしいのかな?」と思いました。
今思えば、よく食べる人なんて芸能界にたくさんいるし、
わざわざ「ふっくら焼けてるのにまずいね」と言われるパンみたいな顔の私をリポーターとして呼ぶことなんてあるわけないのですが、
なにか私を呼ぶ理由があるのだろうと思い上がって、テレビディレクターさんとの打ち合わせに行くことにしました。
バイキングの料理をどのくらい食べられるかっていう大食い企画かな?
食べることが好きな人たちが集まって、それぞれの個性豊かな取り方を紹介するのかな?
女子大生に人気のバイキングを体験したりできるのかな……?
いろいろな期待が、頭の中のテレビ画面に次々と映し出されては、消えてゆきました。(なんだその表現)
打ち合わせ場所である渋谷のコーヒー屋さんに行くと、それっぽい男性が座っており、
「初めまして!お好きな飲み物を頼んでください~!」と言ってくださいました。良い人そうで安心です。
私は、頼みたかった「アイス宇治抹茶ラテ」という長い単語を喉に詰まらせ、「アイスまっ…ラテで……」と伝えてしまい、宇治抹茶を飲む機会を失うくらいに緊張していました。
そして名刺を受け取って、席で向かい合い、
「どんな企画なのかな?」とドキドキしていたら、
「今日はありがとうございます!電話とかより直接打ち合わせるのが一番早いと思って……さっそく聞いていきたいんですけど、」
聞いていく?さっそく?
あ、まだ企画がどうこうっていうより、その前の段階の打ち合わせなのか!
今日の私の答えによって、出るのか出ないのか決まるんだな。
よし!頑張ってなんでも答えるぞ!
「あぐ味さんは、週に何回バイキングに行かれてるんですか?」
????
週に何回バイキングに行くか?
0回ですけれど……………。
えっ?
あ。
気付きました。
私はこの日、完全に「バイキングアドバイザー」として呼ばれていたのです。
心の中で「うわあ、どうしよう」と思いながら、
事前にメールでなぜ私が呼ばれるのか聞かなかったこと、浮かれて依頼をあまり疑問に思わなかったことなどを悔やみました。
バイキングはとっても好きだけど、
年に四回、すごくはしゃいで「行っちゃう!?」みたいなときしか行かないし……。
そして、
「…………月に2回くらいですかね?」
微妙な嘘をつきました。
ここで「いや私、バイキングは人並みに好きですが、詳しくはないですよ」って言うべきだったんです。絶対。本当に私は悪いことをしました。
でも、わざわざネットで私のことを見つけて(リサーチしたのは違うスタッフさんかもしれませんが)、
ここまで打ち合わせに来てくれたこのテレビディレクターさんに、
「私バイキングそんなに行かないですよ?」
と第一声で告げることがめちゃくちゃこわかった……!
実は以前、一度だけビュッフェの攻略法を紹介する記事を書かせていただいたことがありました。
メールを受け取ったときもその記事が脳裏によぎったのですが、
まさかその記事を見ただけで私をバイキング王だと思うテレビマンがいるわけない、
そのたったひとつの記事を見て、他に私のことをなにも検索せず、
「この人はバイキングに詳しそうだ!打ち合わせよう!」…となるわけない、と思ったのです。
しかし、
「ふむ、月に2回……」
と、彼は明らかに「思ったより少ないな」という反応を示しながらそれをメモしたあと(私の心は申し訳なさでキュウっとなった)、
さらに聞いてきたのです。
「じゃあなぜ、バイキングの世界でそんなに有名なんですか?」
?????????
バイキングの世界で、私が有名?
あ、このテレビディレクターさん、違う世界線に居るな……?
試しに帰ってから「女子大生 バイキング」などで調べると、
たしかに私がビュッフェ攻略法を教える記事が出てくるのです。
あぁ……。
この記事で、この人は、私をバイキングにめちゃめちゃ詳しい人だと思ってくれたんだろうな……。
色々考えたのですが、打ち合わせに呼んでみよう、というくらいにはなるのかもしれません。
私も学校の課題や仕事などで、○○な人を探したいなと思ってネットで調べるとき、
けっこう判断基準がゆるくなる、という体験を何度もしたことがあります。
例えば、「スパゲッティは鼻から食べた方が旨い」と主張する人を探してるとき、
「スパゲッティ 鼻から食べる 美味」などと検索して、
ブログで「スパゲッティを鼻から食べてみました。旨いぞ!!」と書いている人を見つけたら、
この人だッッ!!!!って、なりますよね。
その人が本当に鼻から食べたのか
鼻から食べて本当に旨いと感じたのか
ギャグとして書いただけじゃないのか
その日に一度だけ鼻から食べて旨いと思っただけで、別に主張なんて無いんじゃないか
ネット上にあるそのブログを見ただけじゃ、分かりません。
で、実際打ち合わせてみないとな~となって、
「スパゲティに関する企画でお打ち合わせをしたいのですが」とメールを受け取ったそのブログ作者が
「鼻からスパゲティを食べた方が美味しいのって、ご自身ではなんでだと思います?」
とか聞かれて「は……????」となる。
そんなことって多分、いつでもどこでも起こってしまっているんですよね。
長々と変な例えをすみません。
だからとにかく、「リサーチ不足!!」と責めるような気持ちもありつつ、でも打ち合わせ段階ってそんなもんだよね、とも思ってたのでした。
もうこの番組に出れるか出れないかという次元ではなく、
私がひたすら「バイキングには詳しいけど番組に呼ぶほどじゃない」というくらいの評価に落ち着くように努めているという、無駄な時間が生まれ始めました。
「とんだペテン師を掴まされたぜ!!こいつ全然バイキング知らねーよ!」とは思われたくなかったのです。純粋に悲しいから。
だんだん、このテレビディレクターさんがどんな答えがほしいのか、分かるようになってきました。
例えば、
「バイキングで座るといい席とかありますか?」
ということを聞かれて、
期間限定の魚介類メニューなどは人気ですぐ無くなってしまうので、追加されたらすぐに取りに行けるように、季節ものの食べ物が置かれている辺りに座れるとグッドだと思います!!
的な回答(そうなのかは知らないけど)が、
一番求められているんだろうな、と思いました。
しかし私は、
さすがに真偽の分からない想像上の答えを言うのは怖すぎたので、
「店員さんに案内された通りに座るしかないですよね」
というクソクソ回答を繰り出し、
テレビディレクターさんの「は、ははぁ」というため息のような相づちを聞くのです。
バイキングの小ワザなどを話しているとき(なんとか持ってる限りの知識で対応)の、
「どこでそういったバイキングの知識を仕入れるんですか?」
という質問には、
何度も通っていたらシェフがこっそり教えてくれました。とか、
バイキング仲間同士のバイキング会で教え合うんですよ。とか、
そういうのが多分イイんだろうなと思いました。
でも私は
「ネットとかで見かけました」
というクソオブザクソ回答。
こんな打ち合わせは早く終わった方が双方のためだと思いました。
そして、望まぬ「とんだペテン師」に認定され始めた頃、
「大体分かりました。また企画がやることになったらご連絡しますね」
と、打ち合わせが終了しました。
気を使った言い方をしてくれてますが、まぁ呼ばれることはないな!と丸分かりの結果です。
でも、私が一番思い返してイヤだったのは、このあとです。
「今大学何年生ですか?」
息抜きというか、世間話が始まりました。
バイキングについてなにも言えなかった私を前にして、イライラしたりすぐ帰ったりせず、
ちょっと話してくれるのは優しいというか、安心しました。
「四年ですね」
「じゃあ就活かぁ!なにになりたいの?」
「一応テレビ関係の仕事を目指していて……」
そう、私は目の前にいるこのテレビディレクターさんのいるような世界を目指して、
ちょうど本格的な就活に入った頃でした。
大学でも四年間、テレビ番組の制作に関する勉強をしており、
だからこそ、このテレビディレクターさんとのグダグタな打ち合わせで
「そうなるよな、難しいもんなんだな」と勉強になる部分と、「なんでそうなるんだよ」と失望する部分もありました。
まぁとにかく、テレビを作ってる人と会えるのは嬉しかったのです。
「テレビ関係って、プロデューサーとか、制作側?」
「そうですね」
「やーめた方がいいよ!!!」
?
「本当にきついよ。やめた方がいい!」
……!?
いや!分かるけど!
テレビの世界が厳しくて、それを私に伝えたくなるくらいに、この人が色々と辛い思いをしてることも、
その言葉にたぶん、悪気がないことも!
ただ、
四年間勉強して今から就活しようとしてる人間によくそんなことが言えるな!
というか、お前だけの意見で、私が目指してきた世界を全否定してんじゃねーよ!!!
番組作るの楽しい人もいるだろ。
辛くても、番組作りたいから作ってる人たくさんいるだろ。
辛いしやめた方がいいぐらいだけど仕方な~く作ってたら、そりゃあバイキングあんまり行かない人をバイキングアドバイザーとして打ち合わせ呼んだりするよね!!!!
てかテレビの世界に居ることに少しでも誇りを持っていたら、「厳しいけどがんばってね」とかいう言葉を出せるのではないか?
「つらいよ!やーめた方がいい!!」
っていうその、脳のどの機関も通らずに出たような言葉で人を刺すな!!!!
と、頭の中をいろいろ駆け巡りましたが、
「そっすよね~~」
とだけ、やっと口から出ました。
「人足りてないから、履歴書送ればすぐなれるよ!」
最後にこんな言葉でとどめをさされました。
そういう会社もあるし、そうじゃない会社もあるだろ。
就活生がその言葉で「なれるんですか~~ホッ!」ってなると思ってんのかな?
自分の仕事にプライドがないからこんな打ち合わせが行われてしまったんだろうなぁ………!
責めたい気持ちはないとか言っておきながら、最後はめちゃ怒ってしまいました。
でもとにかく、こういうことがあったからテレビの制作者はだめだ!とかいう話ではないです!
だってきっとこのテレビディレクターさんも素敵な番組を作れるから今の立場があるんだろうし、私はなんにせよテレビの世界に憧れています。
後日、結局この企画自体が実現しないことになった、というメールを受け取りました。
テレビを見ているとき、
卒業制作で番組を作っている今、
ふと、思い出す出来事でした。
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青井 (土曜日, 02 9月 2017 20:17)
自分も昔テレビ業界に憧れていましたが、言い訳ばかりで結局行動には移しませんでした。
なので行動力のあるあぐ味さんの事を尊敬しています
これからも陰ながら応援してます!
あぐ味さんの作る番組、待ってます!